2012年05月10日

カルチャーカフェ・獨協「ホントにあった?中国のコワい話」第4回「キョンシーは実在するか?〜中国の死体搬送術〜」(Part1) #姫路

 このところ荒れる天気が続いております。筑波で竜巻が発生したり、今日は関東で雹が降ったり、天変地異の前触れでしょうか。現実がこう怖くなってくると、コワい話もしにくくなりますが、そのあたりは気にしないようにしつつ、今日も元気に(?)参りましょう。

 これまでのコワい?話は、おおむね幽霊、すなわち死後の魂が関わるものが多かったと思います。(まぁ、神話伝説に出てくる怪物とか、『聊斎志異』「画皮」の化け物とかもいましたが)
 今回のカルチャーカフェ・獨協「ホントにあった?中国のコワい話」第4回「キョンシーは実在するか?〜中国の死体搬送術〜」は、その魂がぬけてしまったあとの身のほう、つまり屍体が主人公(?)でございます。なにせ屍体のくせに動き回りますから。

 動く屍体、といえば、有名なのは「ゾンビ」ですね。ホラー映画や小説、ゲームなどに登場し、ふらふらと歩き回りながら人間を襲う屍体です。1970年ごろから、ゾンビ映画がブームとなって、大量のゾンビ映画が作られるようになり、日本でも次から次へと公開されました。このブームに目をつけたのが、当時の香港映画界。1980年頃から、やはり「動く屍体」を登場させるホラー映画を作り始め、1985年公開のホラー・コメディ(原題は「殭屍先生」)が大ヒット、翌年には日本でも公開され、これまた大ヒットを記録したのです。



 このとき、日本の配給会社のスタッフが、映画に登場する動く屍体に、「キョンシー」と命名しました。「ゾンビ」とは違うぞ、というわけですが、どこが違うのでしょう?それは、ゾンビは何らかの原因(宇宙線とかウィルスとか)で屍体が動きだし、人を襲うのですが、キョンシーは基本的には道士によってコントロールされ、動かされる屍体だ、ということです(そのコントロールがはずれ、屍体が暴走することで、映画が成立するのですが)。また、ゾンビはおおむね生前のままの服装ですが、キョンシーは中国最後の王朝、清の時代の官吏の服装である、という点も、キョンシーがゾンビとは異なる点です。

 では、キョンシーとはいったいなんなのか? まずは、その名の由来から見ていきましょう。
 映画「幽幻道士」、香港での原題は「殭屍先生」でした。「殭屍」(きょうし、「僵屍」とも書く)は硬直した屍体を意味し、「殭屍先生」は殭屍になった先生殭屍をコントロールする道士のことを指しています。で、この「殭屍」、香港での発音が「ゴンシー」のような音だったので、配給会社のスタッフがその音に近い「キョンシー」を呼び名にした、というわけです。

 さて、この「殭屍」は硬直した屍体、つまり死後硬直を起こした屍体をもともとは意味する言葉でした。屍体は死後硬直を起こした後、徐々に腐敗して土に帰るものですが、死後防腐処置を施されたり、置かれた環境によって腐敗菌の繁殖が抑えられたなどの理由で、中には腐らず、そのままの姿で残ることもあったようです。そのような屍体も、「殭屍」と呼ばれるようになりました。例えば、南朝宋(420〜479)の劉敬叔(りゅうけいしゅく)が著した志怪の書、『異苑』にこのような記述があります。

 
京房(けいぼう)の遺体は、義熙(東晋の年号、405〜418年)の頃になってもまだ腐らずもとのままであった。「僵屍」の肉は薬になるというので、兵士たちはその肉を切り分けた。


 京房(紀元前77〜紀元前37年)は前漢時代の学者で、皇帝に徴用されましたが、大臣たちに疎まれて、機密漏洩の罪を着せられて処刑されてしまいます。古代中国では、一般的な死刑は「棄市」といい、市場で公開処刑して、屍体はさらし者にします。そのまま400年以上たっても腐らなかったということで、立派な「殭屍」になっていたのでしょう。熟成されて薬効もありそうですが、お味のほうは…考えないことにしましょう。

 そしてキョンシーが着ている衣服ですが、これは中国の葬儀と関わりがあります。中国の伝統的な葬儀は、以下の手順で行われます。

@遺体を洗い清め、「寿衣」を着せる
A三日目に頑丈な柩を用意し、納棺する
B七日ごとに僧侶や道士に読経を依頼する
C一定期間自宅に安置して供養した後、出棺して郊外の墓地に埋葬する


「寿衣」(じゅい)とは死装束のことですが、日本の死装束はたいてい白い装束で、これは巡礼者の服装とも言われます。死出の旅に出るための衣装、ということでしょうが、中国の「寿衣」は全く違っていて、高級な生地にあざやかな刺繍が施された、まことにきらびやかな衣装です。
shouyi.jpg

寿衣の例(左が男性用、右が女性用)
(香港の葬儀社「宝福号」HPより)


 これは、死後も生前と同じ(あるいは生前よりよい)暮らしができるように、という遺族の願いを込めたもののようです。ですから、中国の葬式では、死者が生前使っていた道具を墓に入れたり、「紙銭」(しせん)を燃やして、あの世でお金に困らないようにするなどの風習があります。キョンシーが来ている清代の官吏の服装も、そのような願いが込められたものなのです。

 では、古代中国の「キョンシー」はどのようなものだったのか? それはまた次回の講釈にて。
posted by TMR at 22:38| Comment(0) | 講座
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