2012年05月06日

カルチャー・カフェ獨協「ホントにあった?中国のコワい話」第3回「コワい?中国の怪談〜明清の怪異譚〜」(Part3) #姫路

 驚きの一日二回更新!…いや、今朝投稿したのは、ほんとうは昨晩投稿する予定のものだったんですが、投稿する前に睡魔に襲われました。
 しかし昨日、今日の月は「スーパームーン」とやらで、やたら大きく明るいですね。今日の七時頃に外を歩いていたら、ちょうど月の出のときで、東の空に赤い巨大な月が浮かんでいるさまは、デス・スター出現?!とびっくりしました。

 …閑話休題、カルチャー・カフェ獨協「ホントにあった?中国のコワい話」第3回「コワい?中国の怪談〜明清の怪異譚〜」の続き、でございます。

 前回は、化け物が美女の皮をまとって男をたぶらかし、心臓を奪うホラー&スプラッターなお話をご紹介しました。
 今回は、前回とは打って変わって(?)、人を怖がる幽霊のお話を紹介しましょう。『聊斎志異』から「連瑣(れんさ)」でございます。

 楊于畏(よううい)という男、とある河のほとりの家に引っ越しました。この家の書斎は荒れ野に面していて、荒れ野には古い墓があちこちにあり、夜になると風が吹いて白楊の枝を揺らして、なんとも寂しいところでした。ある晩、楊がその書斎でぼんやり坐っていると、荒れ野のほうから、なにやら歌声が聞こえてきます。

 闇の夜に荒風の  吹きすさび
 蛍火は流れいき  草の葉や窓幕にとまる


(歌の訳文は増田渉・松枝茂夫・常石茂訳『中国怪異譚 聊斎志異』第2巻、平凡社ライブラリーより)


 くりかえし歌うその歌声は、女の声のようですが、かぼそく寂しげで、楊はなんとも不思議に思います。
 次の晩も同じように歌声が聞こえてきたので、楊は腰掛けを持ち出して、それに登って塀の外をのぞいてみたところ、歌声はぴたっと止んでしまいました。これは亡霊に違いないと思ったものの、楊はその寂しげな歌声が忘れられなくなってしまいました。

 その次の晩、楊さん今度は塀の上に這いつくばって、歌声がするのを待ち構えます。すると、夜も更けたころ、一人の女が草むらの陰からふわりと現れると、寂しげな声で歌い出すではありませんか。しかし楊さんうっかり咳払いをしてしまい、女はあわてて草むらに隠れてしまいます。
 楊はしばらく待っていましたが、女が姿を現さないので、さきほどの歌に続きの歌詞をつけて歌ってみます。

 この胸の悲しき思い 何人のしりたもうかや
 ころも手のただ冷たくて 月しろの昇るを見つつ


(歌の訳文は同上)


そしてしばらく待ってみましたが、なんの音沙汰もありません。あきらめて書斎に戻ると、つと女が入ってきて、丁寧にあいさついたします。
「つい怖がってしまいましたが、あなた様は風流なお方ですのね」
見ると痩せ細ってなよなよと弱々しく、寂しげな姿。楊が身の上を尋ねると、女は答えました。
「わたくしは甘粛の生まれです。父親に連れられてあちこち渡り歩き、十七歳の時にこの地に来て、急病で死んだのです。もう二十年も前のことです。それ以来、やりきれない寂しさに、夜ごとあの歌を歌っておりました。でもどうしても続きがつくれなかったのですが、今日はからずもあなた様に続けていただいて、うれしゅうございます。」
 楊さんすっかりうれしくなって、女に一緒に寝ようと言い寄りますが、女、「わたくしはあの世のもの、生きた人と一緒に寝たりすれば、その人の寿命を縮めてしまいます」と断られてしまいました。でも女はそれから毎晩楊のところに遊びに来て、詩を論じたり楽器を弾いたり、囲碁をしたりして楽しく遊ぶようになりました。

 そんなある日、楊の友人の薛(せつ)という男が訪ねてきます。楊は昼寝中でしたが、薛はかまわず上がりこみ、部屋の中を見回すと、琵琶やら碁盤やら詩を書き付けた紙束やらが置いてあります。楊の奴はこんなものに興味を持ったことなどなかったはずと、怪しんだ薛は、楊を起こして問いただします。楊は借り物だといってごまかしますが、薛が紙束をパラパラめくると、最後に女の字で「某月某日、連瑣書」と書いてあるのを見つけてしまい、楊もごまかしきれなくなりました。
 薛は楊から事の顛末を聞くと、連瑣という女に会ってみたいと言ってききません。薛が帰った後、楊は連瑣に事情を打ち明けると、連瑣は怒って「しゃべってしまうなんてあんまりだわ、しばらく来ませんから」といって帰ってしまいました。

 その翌日、薛は友人二人を引き連れて楊の家を再訪すると、夜通しドンチャン騒ぎで連瑣が現れるのを待ち受けます。そうして何晩も過ぎましたが、女はいっこうに現れず、薛たちもそろそろ飽きてきました。と、外からかすかな歌声が聞こえてきます。なんとも寂しげで胸に迫る歌声でしたが、薛の友人のという荒武者、やおら大きな石をとって外に投げつけると、「いい加減にせい。メソメソ気詰まりな歌だわい」とわめきます。歌はすぐに止んでしまいました。皆は王を叱りますが、後の祭り。

 その二日後、友人たちも退散してガランとした部屋で、楊がぼんやりしていると、連瑣がやって来ました。泣きながら、「わたくしとても怖かったわ、もうわたくしたちの縁もこれきりですわ」と言うと、楊が引き留めるのも聞かず、立ち去っていくのでした。楊はすっかり落ち込んでしまいます。

 それから一月ほどもたったある晩、楊が一人で酒を飲んでいると、部屋の帳が開いて、すっと連瑣が入ってきました。楊は大喜び、でも連瑣は涙を流すばかりです。楊が何度も尋ねると、ようやく口を開いて、「どこかの役所の薄汚い用人が、わたくしを妾にすると言うのです。どうかお助けを」と打ち明けました。楊は怒るまいことか、相手を殺してやると息巻くと、彼女は明日夢の中で迎えに来ると言います。
 翌日、楊は早くから寝ていると、連瑣が迎えに来て、楊に刀を渡し、ある建物に案内します。しばらく待っていると、戸を叩く音。「あの男が来ました」と彼女が言うや、楊は扉をぶち破って男と対峙します。楊が斬りかかると、男は石を拾って雨あられのごとく投げつけてきました。その一つが楊の手に命中、楊は刀を落としてしまいます。まさに絶体絶命、そのとき遙か向こうに、一人の男が弓で狩りをしているのが目に入ります。よく見れば荒武者の王、楊は大声で呼びかけると、気づいた王は弓を引き絞ったまま駆けつけ、敵の男に矢を射かけ、男はどうと倒れました。
 楊は喜んで王に礼を言います。王も先だっての非礼の詫びができたと喜び、戻っていきました。

 翌日、楊が目を覚ますと、右手が腫れています。間もなく王がやって来たので、昨日のことを話すと、自分も不思議な夢を見たが、本当にあったことだったのかと、不思議がっております。王はもう一度女に会わせてくれるよう頼みますが、女は王がコワイので、楊にお礼の短剣を預け、王に渡させました。

 それから女はまたもとのように、楊のもとに通うようになりました。そうして数ヶ月もたったある晩のこと。女は楊の顔を見ては笑いながら、顔を赤らめてばかり。楊がどうしたのかと何度も尋ねると、ようやく「あのね、できちゃったの」いや、「わたくし、こうして長い間愛していただき、陽の気を受けてきたため、もう少しで生き返ることができそうです。でもそのためには、あなた様の精気が必要なのです」というのです。
 楊は「なんだ、そんなことぐらい」と笑って言うと、一晩を共に致しました。
 それから女は、楊の血を一滴もらうと、「もうここには参りませんが、百日たって、わたくしの墓の前の木に青い鳥が止まって鳴いたら、すぐに墓を掘り起こしてください。早すぎても遅すぎてもいけませんから」と言い置いて、立ち去りました。

 そして百日後、楊は女の墓に行くと、木の上で青い鳥が鳴き始めました。それっと墓を掘り起こします。棺はもう朽ちていましたが、女の体はまるで生きているかのよう。着物にくるんで家に連れ帰り、寝台に寝かせておくと、やがて息をし始め、夜半になって甦りました。
 その後、女はいつも楊に言うのでした。「あの十何年間は、まるで夢のようでした。」

 …人間を怖がる幽霊、という逆転の関係が、女の幽霊をかわいらしく見せているようです。しかし、幽霊といっても、属する世界(?)が人間と違うだけで、思考方法も行動様式も、人間と変わらないあたり、中国人の死後の世界に対する考え方が表れているようですね。以前紹介した六朝志怪で、「無鬼論」を論破しようとして失敗した鬼(幽霊)も、最初から実体をさらして幽霊の存在を証明するのではなく、あくまで論理で証明しようとしたあたり、人間らしさ(?)がありました。(論破に失敗して、最後には正体をさらすんですが)

 さて、次回も幽霊話ですが、これまた妙に人間じみた幽霊が登場します。ではでは。
posted by TMR at 23:40| Comment(0) | 講座

カルチャー・カフェ獨協「ホントにあった?中国のコワい話」第3回「コワい?中国の怪談−明清の怪異譚」 #姫路

 えぇすみません、また間が空いてしまいました。ゴールデンウィークだからといって、どこかに出かけたりということもないのですが、頭の中身は年中ゴールデンウィークなもので、ついうっかり更新をサボってしまいます。

 さて、カルチャー・カフェ獨協「ホントにあった?中国のコワい話」第3回「コワい?中国の怪談−明清の怪異譚」の続きでございますが、そんなわけで準備(話を思い出す)のに少々お時間をいただき、その間、前回紹介した「牡丹灯記」の日本版「牡丹灯籠」の前段を、桂歌丸師匠の名調子でお楽しみください。



…ええ、お楽しみいただけましたでしょうか。では改めて、カルチャー・カフェ獨協「ホントにあった?中国のコワい話」第3回「コワい?中国の怪談−明清の怪異譚」の続きでございます。(さっさとやれ)

 前回は明代の短編集『剪灯新話』から、「牡丹灯記」をご紹介しました。今回は、明の次の時代、清の時代に編まれた短編小説集から、またコワい?話をいくつかご紹介致します。

 清代も俗文学の出版は盛んであり、長編小説では曹雪芹(そうせっきん)の『紅楼夢(こうろうむ)』、呉敬梓(ごけいし)の『儒林外史(じゅりんがいし)』、李汝珍(りじょちん)の『鏡花縁(きょうかえん)』、韓邦慶(かんほうけい)の『海上花列伝(かいじょうかれつでん)』など、さまざまなジャンルの小説が誕生します。とくに『紅楼夢』は、それまでの中国の小説にはなかった、少年少女の恋愛とそれをとりまく大人たちの、さまざまな人間模様が描かれており、数々の続編が作られるなど、大人気となりました。今でもその人気は衰えず、『紅楼夢』を研究する「紅学」というジャンルがあるぐらいです。

 一方、短編小説集もいろいろ出版されました。たとえば蒲松齢(ほしょうれい)の『聊斎志異(りょうさいしい)』、紀ホ(きいん)の『閲微草堂筆記(えつびそうどうひっき)』、袁枚(えんばい)の『子不語(しふご)』(『新斉諧』とも)などです。今回ご紹介するのは、これら短編集に収められた話です。

 まずは『聊斎志異』から、「画皮」。

 太原県というところに、という書生がおりました。たまたま明け方に外を歩いていると、風呂敷包みを抱えたひとりの女がふらふらと歩いているのを目にとめました。急いで追いついてみると、これが二八(=十六歳)ばかりの美しい娘さんではありませんか。

 王さん、これはしめたと、女に声をかけます。
「こんな早くにお一人でお歩きとは、どうしたわけですか?」
 女は最初は王にとりあいませんでしたが、重ねて王が尋ねると、ほっと溜息をついて申します。
「わたくしは欲深い両親のために、さるご大家に売られたのです。ところがその家の本妻が焼き餅焼きで、私は毎朝毎晩殴られどおし、どうにも我慢できなくなって、とうとう逃げ出してきたのです」
 それを聞いた王、「それでは私の家にいらっしゃい。しばらくかくまってあげましょう」と言い、女を自宅に案内します。家人にも知られぬよう書斎に匿い、それからは女と毎晩愉しく過ごします。

 ある日、王は街に出て、市場を歩いていると、一人の道士に出くわします。その道士、王を見るやあっと目をむき、王が最近何に出合ったのか、問い詰めます。王がごまかすと、道士は「世間には、死が目前まで迫っていても、気がつかない者もいるものだ」と言いながら、立ち去ります。

 王は道士の言葉をいぶかしみつつ、家に戻ってきました。すると門にはかんぬきがかけられ、入ることができません。やむなく、土塀の崩れたところから中に入り、書斎に向かいますが、書斎の扉も開きません。何事かと、そっと窓からのぞいてみると、なんと、青緑色の顔、鋸のような歯をむき出しにした一匹の鬼(き)が、寝台に人の皮とおぼしきものを広げ、絵筆で丁寧に色を塗っているではありませんか。やがて塗り終わると、その皮を持ち上げてさっと一振り、体に羽織ると、あっというまに、あの女に早変わり。

 王はすっかり魂消てしまい、がくがく震えながら逃げ出すと、さっきの道士を捜し回ります。町外れのボロ道観でやっと道士を見つけ、かくかくしかじかと訳を話すと、道士は払子をあずけ、寝室の入り口にかけておくよう言い含めます。家に戻った王さん、また書斎をのぞく気にはなれず、言われたとおりに寝室の入り口に払子をかけて、妻と共に寝台で震えておりました。

 夜も更けたころ、寝室の外に近づく足音。あの女がやってきたのです。王がガクガクと震えながら様子をうかがっていると、女は寝室の外で、しばらく払子をにらみつけていましたが、やおら払子をつかむとバラバラにしてしまい、そのまま寝室の扉を押し破ると、まっすぐ寝台の王に飛びかかり、その腹を割くと、心臓をつかみだしていずこへかと立ち去ってしまったのでした。

 この一部始終を震えながら見ていた王の妻の陳氏、王の死に様を見て嘆き悲しみ、例の道士に助けを求めます。道士は鬼の居場所を突き止めると、瓢箪を取り出して鬼を封じ込め、退治します。陳氏、王を生き返らせてくれるようお願いしますが、道士は自分にはできないと断り、かわりに市場にいる乞食にお願いするよう言います。陳氏、市場に行ってみると、汚らしいうえに訳の分からないことばかりつぶやいている乞食がいます。その前に進み出て、王を生き返らせてくれるようお願いしましたが、乞食は陳氏をからかうばかり。しまいに、手のひら一杯に痰を吐き出し、「こいつを食え」と無理強いします。陳氏、夫を助けるためと、必死の思いで飲み下しますが、乞食は笑いながら立ち去ってしまいました。悲しいやら悔しいやら、陳氏は家に戻ると夫の屍体に取りすがり、嗚咽します。と、胸の奥からこみあげてくるものあり、あっと思う間もなく、口から飛び出して王の腹の中に転がり落ちました。見るとそれは湯気を立て、ピクピク脈打っている心臓ではありませんか。陳氏、あわてて王の腹をとじ合わせ、絹布で腹をぐるぐる巻きにします。次の日の夜明け、王はむっくり起きだして、「夢の中にいたみたいだ」とのたまいました。

 …人の皮を被って美女に化けたり、心臓をつかみ出したり、ホラー&スプラッターなお話です。もうちょっと短くまとめるつもりでしたが、どうしても長くなってしまうのは私の文章力のせいでしょう。
 こんな恐ろしげな妖怪が登場する一方で、かよわい?幽霊が登場するお話もあります。それはまた次回の講釈で。
posted by TMR at 09:33| Comment(0) | 講座