なんだかいきなり暑くなってきまして、体が適応しきれず、夏バテならぬ春バテの様相を呈してきました。そのうち日本からは四季が消滅して、雨季と乾季だけになるんじゃないかと木が木じゃありません、いや気が気じゃありません。木が木じゃなかったらなんなのか、わがマシンにインストールされたATOKよ。そのような問いかけを為してもATOKは答えることなく、ただひたすらに誤変換をはき出し続けるのです。
ええ、暑さに脳までやられかかっておりますが、気を取り直して、カルチャー・カフェ獨協「ホントにあった?中国のコワい話」第3回「コワい?中国の怪談−明清の怪異譚」をお届けします。コワい話でちっとばかり涼しくなりましょう。
前回までは、六朝から唐代の怪異譚をいくつかご紹介しました。事実の記録という立場で書かれた六朝の志怪が、唐代に入って虚構性・物語性を強めた伝奇になっていったのでした。これら志怪や伝奇は、おおむね文言、つまり文章語で書かれていました。宋代になると、語り物や演劇などの庶民文芸にこれら志怪や伝奇も取り入れられ、明代には俗語による文芸である「小説」が誕生する、というのは前回お話ししたことです。
明代の小説と言えば、『三国志』『西遊記』『水滸伝』などのような、歴史に題材をとった長編小説が有名でしょう。また『水滸伝』の登場人物を借りて、明代の都市生活者の暮らしを活写した、いわばスピンオフ作品の『金瓶梅』や、宋代の名判官、包拯(ほうじょう)の活躍を描いた『包公案(ほうこうあん)』(『龍図公案(りゅうとこうあん)』とも)など、さまざまなジャンルの長編小説が出版され、人気を博しました。
いっぽう、かつての志怪や伝奇のスタイルに範をとった短編小説集も現れました。瞿佑(くゆう)の『剪灯新話(せんとうしんわ)』や馮夢龍(ふうぼうりゅう・ふうむりゅう)の『喩世明言(ゆせいめいげん)』『警世通言(けいせいつうげん)』『醒世恒言(せいせいこうげん)』(あわせて「三言」と呼びます)や、凌濛初(りょうもうしょ)の『拍案驚奇(はくあんきょうき)』『二刻拍案驚奇』(あわせて「二拍」と呼びます)などがあります。志怪や伝奇に範を取っただけあって、怪異譚も多く含まれています。今回は、『剪灯新話』から、かの有名な「牡丹灯記」を紹介しましょう。
元朝の末期、舞台は浙江の明州府(今の寧波)。中国では正月十五日を「元宵節(げんしょうせつ)」と呼び、正月の締めくくりとなる祭日ですが、その正月十五日から五日間、明州府では元宵灯(ランタン)祭りを盛大に行っていたそうです。
この明州府の南に住んでいた喬生(きょうせい)という若い男、愛妻を亡くしたばかりで意気消沈し、祭り見物にも行かず家の前でぼんやりとしておりました。夜も更けた頃、ふと見ると、年のころは十七、八の美しい娘が、牡丹灯籠をかかげた女中といっしょに、しゃなりしゃなりと前を通り過ぎていきます。喬生、その美貌にぞっこん、ふらふらと後をついて行くと、気づいた娘が振り向いて、にっこり笑いかけます。すっかり舞い上がった喬生、女二人を自宅に案内し、娘と一夜を共にしたのでした。
娘は姓を符、名を麗卿(れいけい)と名乗り、家の事情で今は寧波近くの月湖の西に、女中と二人で仮住まいしているとのこと。かくして喬生と麗卿は懇ろな仲となり、麗卿が喬生のもとに通うようになります。
これを怪しんだのが、隣に住んでいた老翁。妻を亡くしたばかりだというのに、女が通ってくるのはいかがなものかと、ある日壁に穴を開けてのぞいてみると、びっくり仰天!喬生が睦言をささやいている相手は、化粧をした髑髏ではありませんか。老翁、これはいかんと、翌日喬生を問い詰めます。喬生が顛末を打ち明けると、老翁、月湖に行って麗卿の住居を確かめるように説得します。
いぶかしみながらも月湖までやって来た喬生、あちこち探し回りますが、それらしき家はいっこうに見つかりません。疲れ果てて、近くの「湖心寺」という古寺に入って休むことにしました。寺の中をぶらついていると、廊下の外れに薄暗い部屋があり、そこに一つの棺桶が置いてあります。
中国では、旅先などで客死した遺体は頑丈な棺桶に入れて、寺などに安置しておき、時期を見て故郷に運びます。この棺桶も、そういう客死した人のものか、おいたわしや、などと思いながら(?)喬生、ふと棺桶の蓋に貼ってある紙を見ますと、黒々と「もと奉化州判符氏の娘、麗卿の柩」の文字。腰も抜かさんばかりに驚いた喬生は、大慌てで逃げ帰り、隣の老翁に泣きつきます。老翁の勧めで、玄妙観の魏法師を尋ねると、魏法師は喬生の顔を見るなり幽鬼にとりつかれたと見て取り、二枚の赤い札を喬生に渡します。持って帰った二枚の札を、門と寝床に貼っておくと、はたしてその晩から、麗卿は現れなくなったのでした。
そうして一月ほどは何事もなく過ぎたのですが、ある晩、友人宅で飲み過ぎた喬生、帰宅しようと千鳥足でふらふらと歩いて、ふと湖心寺の前を通ります。すると寺の門からくだんの女中が現れ、「お嬢様がお待ちです」と、有無を言わさず喬生を寺に引き込み、例の棺桶が安置してあった部屋まで連れて行きます。部屋で待っていたのはもちろん麗卿、喬生の無情をなじると、その手を取って棺桶に引き込んでしまいます。翌日、喬生が帰らないのを心配した老翁が、もしやと思い湖心寺を訪ねると、喬生は棺桶の中で、麗卿の遺体と折り重なるようにして死んでいました。麗卿の遺体は、まるで生きているかのごとくであったそうです。
そのままにもしておかれないので、二人の遺体は棺桶に入れたままで埋葬したのですが、それから明州府では夜な夜な二人の幽霊が出るようになります。その姿を見た人はたちまち病気になり、下手すれば命をもなくす始末。これはかなわんと、人々は魏法師の紹介で、寧波の西にある四明山の鉄冠道人(てっかんどうじん)を訪ね、解決をお願いします。鉄冠道人は湖心寺に赴くと、神通力で喬生と麗卿の霊を捕らえ、さんざんに打ち据えて、地獄に送ったのでありました。
…人間と幽霊の恋物語、なのですが、喬生が髑髏姿の麗卿と睦言をささやき合っている姿は、ゾッとするものがありますね。そして喬生は、麗卿の棺桶に引きずり込まれるときに、何を思っていたのでしょうか。
この『剪灯新話』は江戸時代の日本にも伝来して、当時の文芸に大きな影響を与えます。「牡丹灯記」も、江戸時代の怪談集などに翻案して収録され、のちに三遊亭圓朝が怪談「牡丹灯籠」に仕立てるなど、すっかり日本の怪談となりました。
「牡丹灯記」では、棺桶の中の麗卿は、「生きているかのごとく」の姿となりますが、これは喬生の精気を吸って、肉体が復活したのでしょう。一方、日本の「牡丹灯籠」では、棺桶の中の女、お露は骸骨のまま、新三郎の遺体を抱きしめています。この変容について、先日わが母校である北海道大学文学部中国文化論講座の大学院生、久保田歩さんが、「骨になった符麗卿」という論考を出しました。中国文化論講座の有志で編集している雑誌『火輪』第31号(2012年3月)に掲載されていますので、ご興味のある方はご一読を。一冊500円と、大変お得になっております(宣伝)。久保田さんの論考の他にも、以下の論考や訳注が収録されています。
明・卓吾居士、望月清香訳「日本国立公文書館蔵『醋葫蘆』巻末『妙音怕婆経呪十王転相法懲録』の翻訳」
高蜚咲訳注「京劇「梅龍鎮」試訳(後)」
池田真衣「金玉奴棒打薄情郎」とその派生作品の比較−乞丐の描写を中心に」
購入お申し込み、バックナンバー紹介はこちらを御覧ください。(なお、リンク先は私の後輩であるイエレン氏のHP「野人飯店」の一コンテンツです。こちらもよろしく)
…まだカルチャー・カフェの話は続くのですよ。また来週!(えー)
2012年04月30日
カルチャー・カフェ獨協「ホントにあった?中国のコワい話」第3回「コワい?中国の怪談−明清の怪異譚」 #姫路
posted by TMR at 10:35| Comment(0)
| 講座
2012年04月28日
イオンタウン講座、募集中! #姫路
さて宣伝第2弾ですよ。
年初にイオンタウン姫路で行った「カルチャー・カフェ獨協」について何度かご紹介しましたが、そのイオンタウン姫路では毎週「まちコミ講座」というのを行っています。じつは「カルチャー・カフェ獨協」も、その枠内でやっていたのですが、今年度も、この「まちコミ講座」で本学の教員がいろいろおもしろい講座を担当します。私もいくつか担当します(おもしろいかどうかは保証の限りではありません)。5〜6月の講座は以下の通り。
5/10(木)ポピュラーミュージックの歌詞を読み解く(4)−カーペンターズの曲を楽しみましょう−(法学部、池下幹彦教授)
5/16(水)うどんは中華でラーメンは和食?−日中モノの交流史(1)−(TMR)
6/6(水)外来語の二十世紀−日中モノの交流史(2)−(TMR)
6/14(木)ポピュラーミュージックの歌詞を読み解く(5)−イーグルスの「ホテルカリフォルニア」を鑑賞します−(池下教授)
6/28(木)スマートフォンとは?(経済情報学部、佐野智行教授)
こちらは受講料無料となっております。ただし受講者は最大20名となっておりますので、お申し込みはお早めに。
申込先は「まちコミ倶楽部」事務局(フリーダイヤル 0120-987-554)です。
こちらも親類縁者一族郎党お誘い合わせの上、どしどしご参加ください。
年初にイオンタウン姫路で行った「カルチャー・カフェ獨協」について何度かご紹介しましたが、そのイオンタウン姫路では毎週「まちコミ講座」というのを行っています。じつは「カルチャー・カフェ獨協」も、その枠内でやっていたのですが、今年度も、この「まちコミ講座」で本学の教員がいろいろおもしろい講座を担当します。私もいくつか担当します(おもしろいかどうかは保証の限りではありません)。5〜6月の講座は以下の通り。
5/10(木)ポピュラーミュージックの歌詞を読み解く(4)−カーペンターズの曲を楽しみましょう−(法学部、池下幹彦教授)
5/16(水)うどんは中華でラーメンは和食?−日中モノの交流史(1)−(TMR)
6/6(水)外来語の二十世紀−日中モノの交流史(2)−(TMR)
6/14(木)ポピュラーミュージックの歌詞を読み解く(5)−イーグルスの「ホテルカリフォルニア」を鑑賞します−(池下教授)
6/28(木)スマートフォンとは?(経済情報学部、佐野智行教授)
こちらは受講料無料となっております。ただし受講者は最大20名となっておりますので、お申し込みはお早めに。
申込先は「まちコミ倶楽部」事務局(フリーダイヤル 0120-987-554)です。
こちらも親類縁者一族郎党お誘い合わせの上、どしどしご参加ください。
posted by TMR at 21:52| Comment(0)
| 講座
獨協講座、募集開始! #姫路
またまた間が空いてしまいました。どうもご無沙汰しております。その後お変わりないでしょうか。
さて、今日は宣伝など。
本学では、毎年、市民講座「獨協講座」を開催しております。その春・夏講座の概要ができあがりました。
今年度は、外国語講座が14+1講座、文化講座が3講座、心理講座とキッズ講座がそれぞれ1講座、開講されます。
私も「東アジア三国志 〜日・中・韓の交流史〜」と「漢字の世界 〜その成り立ちと発展〜」を担当します。
それぞれの概要を、以下大学HPから抜粋(手抜き)。
「東アジア三国志 〜日・中・韓の交流史〜」
東アジアの東端に位置する日本は、古くから大陸の中国や朝鮮半島と、さまざまなレベルでの交流を行ってきました。日本、中国、朝鮮半島の三つの地域は、はるか昔から相互に影響を与え合いつつ、発展してきたのです。一方で、それぞれの地域の人々はそれぞれ異なる世界観や思考様式を持ち、それがもとで起こった悲喜劇も少なくありません。本講義では、三つの地域の交流の歴史を、時代ごとに追いながら、東アジア地域の発展について見ていきます。
第1回 交流の幕開け−古代の東アジア
第2回 大唐帝国の時代−遣唐使の見た中国
第3回 海を越える野望−元寇と文禄・慶長の役
第4回 開国・戦争・革命−激動する東アジア
「漢字の世界 〜その成り立ちと発展〜」
「漢字」、すなわち「漢(中国)の文字」です。しかし、この文字は中国のみならず、朝鮮半島や日本、ベトナムなど東アジアで広く使われ、今でも日本や韓国では使われ続けています。しかも、日本や韓国では、それぞれ独自の漢字(国字)を作り出してもいるのです。はたして、それを「漢字」と呼んでいいのでしょうか? そもそも、「漢字」とは何なのか、その成り立ちや変化、各地域への広がりなどを見ながら、「漢字」の特質についてお話しします。
第1回 漢字の成り立ち−六書のはなし
第2回 漢字と戦う中国人−字書のはなし
第3回 漢字と遊ぶ中国人−文字遊びのはなし
第4回 漢字を学んだ人々−日本・韓国・ベトナムの場合
受講料はいずれも¥4,000、一講座あたり¥1,000と、大変お安く(?)なっております。
お申し込みは本学地域連携課まで。締切りは5月26日(土)となっております。
ファックス用申込用紙はこちら(PDFが開きます)。
HPからでも申し込めます。こちらの「申込画面」をクリック。
向こう三軒両隣お誘い合わせの上、どしどしご参加ください。
なお、後期には「中国の五大小説を読む」、「河野鉄兜の旅と詩」の2講座を担当する予定です。
「五大小説」とはすなわち『三国志』『西遊記』『水滸伝』『金瓶梅』『紅楼夢』の五つを指します。『三国志』『西遊記』『水滸伝』はご存じの方も多いでしょうが、『金瓶梅』『紅楼夢』になると、日本ではちょっと知名度が下がります。ところがこの中で中国人が一番好きな小説はどれかといえば、じつは『紅楼夢』なのです。講座では、これらの小説の成り立ちや日本への影響などについてお話しする予定です。
それから河野鉄兜(こうのてっとう)は、以前ブログにもちょっと書きましたが、江戸時代後期の播磨の漢詩人で、とりわけ吉野山の桜を詠った七言絶句「芳野」で有名です。講座では、彼の三度の旅行について、道すがら詠んだ詩を紹介しつつ、その道筋を追っていきます。
こちらは8月ごろにご案内できると思いますので、しばしお待ちを。
もう一つ宣伝するものがありますが、長くなってきたので稿を変えましょう。
さて、今日は宣伝など。
本学では、毎年、市民講座「獨協講座」を開催しております。その春・夏講座の概要ができあがりました。
今年度は、外国語講座が14+1講座、文化講座が3講座、心理講座とキッズ講座がそれぞれ1講座、開講されます。
私も「東アジア三国志 〜日・中・韓の交流史〜」と「漢字の世界 〜その成り立ちと発展〜」を担当します。
それぞれの概要を、以下大学HPから抜粋(手抜き)。
「東アジア三国志 〜日・中・韓の交流史〜」
東アジアの東端に位置する日本は、古くから大陸の中国や朝鮮半島と、さまざまなレベルでの交流を行ってきました。日本、中国、朝鮮半島の三つの地域は、はるか昔から相互に影響を与え合いつつ、発展してきたのです。一方で、それぞれの地域の人々はそれぞれ異なる世界観や思考様式を持ち、それがもとで起こった悲喜劇も少なくありません。本講義では、三つの地域の交流の歴史を、時代ごとに追いながら、東アジア地域の発展について見ていきます。
第1回 交流の幕開け−古代の東アジア
第2回 大唐帝国の時代−遣唐使の見た中国
第3回 海を越える野望−元寇と文禄・慶長の役
第4回 開国・戦争・革命−激動する東アジア
「漢字の世界 〜その成り立ちと発展〜」
「漢字」、すなわち「漢(中国)の文字」です。しかし、この文字は中国のみならず、朝鮮半島や日本、ベトナムなど東アジアで広く使われ、今でも日本や韓国では使われ続けています。しかも、日本や韓国では、それぞれ独自の漢字(国字)を作り出してもいるのです。はたして、それを「漢字」と呼んでいいのでしょうか? そもそも、「漢字」とは何なのか、その成り立ちや変化、各地域への広がりなどを見ながら、「漢字」の特質についてお話しします。
第1回 漢字の成り立ち−六書のはなし
第2回 漢字と戦う中国人−字書のはなし
第3回 漢字と遊ぶ中国人−文字遊びのはなし
第4回 漢字を学んだ人々−日本・韓国・ベトナムの場合
受講料はいずれも¥4,000、一講座あたり¥1,000と、大変お安く(?)なっております。
お申し込みは本学地域連携課まで。締切りは5月26日(土)となっております。
ファックス用申込用紙はこちら(PDFが開きます)。
HPからでも申し込めます。こちらの「申込画面」をクリック。
向こう三軒両隣お誘い合わせの上、どしどしご参加ください。
なお、後期には「中国の五大小説を読む」、「河野鉄兜の旅と詩」の2講座を担当する予定です。
「五大小説」とはすなわち『三国志』『西遊記』『水滸伝』『金瓶梅』『紅楼夢』の五つを指します。『三国志』『西遊記』『水滸伝』はご存じの方も多いでしょうが、『金瓶梅』『紅楼夢』になると、日本ではちょっと知名度が下がります。ところがこの中で中国人が一番好きな小説はどれかといえば、じつは『紅楼夢』なのです。講座では、これらの小説の成り立ちや日本への影響などについてお話しする予定です。
それから河野鉄兜(こうのてっとう)は、以前ブログにもちょっと書きましたが、江戸時代後期の播磨の漢詩人で、とりわけ吉野山の桜を詠った七言絶句「芳野」で有名です。講座では、彼の三度の旅行について、道すがら詠んだ詩を紹介しつつ、その道筋を追っていきます。
こちらは8月ごろにご案内できると思いますので、しばしお待ちを。
もう一つ宣伝するものがありますが、長くなってきたので稿を変えましょう。
posted by TMR at 21:16| Comment(0)
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